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大きく切るから”大切”

by みさとん

大切な人を、大切にしたい。
でも、ふと思った。
”大切”って何だろう。


初めて旅をしたとき、旅の途中で
恋に落ちた。

初めて会ったとき、
あ。わたしこのひとのこと、すきになる。」そう思った。

それくらい、惹かれたのだ。
彼のしぐさや身にまとっている空気、話し方、その全部が不思議で
ふわふわしていて。私をつかんで離さなかった。


「どうしてこの人を好きになったんだろう・・・?」
彼を知れば知るほど、自分が不思議だった。
全然タイプじゃない。周りにはもっと性格がよくて真摯で、素敵な人はたくさんいる。


でも、私は”彼に”恋をしたのだ。


大好きだった。


その、”大好き”という気持ちだけで彼に
一生懸命恋をした。
全身全霊の、片想いだった。



たくさん傷ついて、悔しくて、悲しくて、枕がびちょびちょになるまで泣いた。

彼と待ち合わせするときは、心臓が飛び出るくらい緊張した。

新しい服を買うときは試着室で彼を思い浮かべたし、
夜になると待ち受け画面とにらめっこ。

彼の名前が表示されて、
「もしもし・・・?」私の声と表情は、
きっと彼にしか見せないものだったと思う。


彼には、たくさん感謝を伝えた。


出会えたこと。好きになったこと。
幸せな気持ちをたくさんくれたこと。
全部が嬉しくて、全部が宝物だった。

そんな私を見て、彼は私と距離を取った。
いくら問いかけても答えが無い。
つらかった。

色んな事を考えた。

考えて、涙も枯れて、私は心の中に彼をしまうことにした。
短かったけれど、私のことを愛してくれる別の人と新しい恋もした。


そんな時、彼から連絡がきた


一瞬、画面に表示された名前を、
よく理解できなかった。


「...もしもし。久しぶり。」
身体の中に、あの大好きだった声が、
血液みたいに全身を巡った。


私は一瞬で、時間が巻き戻ったかのように彼にしか見せないあの恥ずかしくてはにかんだような表情になる自分が分かった。


会話の最後に彼がぼそっと放った一言。

「見守ってるから。」

涙が出た。

嬉しくて、嬉しくて。


本当に、不器用な人だと思った。

私が、”好き”と伝えた一年前に、
”興味がない。好きじゃない。”そう言って、振ればよかったのに。
連絡を絶った半年間、好きでもない女の気持ちを抱えて、その優しさとずるさが、
大好きで大嫌いだった。

でも、私は思った。

だから私は、彼を好きになったんだ


大人で余裕があって人に興味がないと言わんばかりの顔で、タバコを吸うけれど
私は、彼の一番よわくて柔らかい部分を
一瞬で好きになったんだ。



辛い思いをたくさんしたけれど、”やっぱり好きになって良かった”と思える人。
”大切”な人には変わりないと、思えた。


それからすぐに、彼と久しぶりに会った。


彼から会いたいと言ってきてくれたのは、初めてだった。
お互いに初めて打ち明ける話をした。

当時の私の気持ち。
連絡を絶った彼の気持ち。


こんな日が来るなんて思わなかった。


今まで暗黙に触れられなかった二人の間にある、柔らかくて暖かくて触れたら壊れてしまいそうなもの。
それを一枚一枚、
ゆっくりはがしていくみたいだった。



これから、
彼とどんな関係を築いていけるだろう



今までは、感謝を伝えたり彼を思いやったりして彼自身を大切にしているようで、
本当は彼への"自分の想い"を大切にしてきた気がする。


そう、大切に”想って”きたのだ。
でも、月日が流れた今、
目の前の彼を大切に”したい”。

大きく切ると書いて、”大切”。

私が今、彼を大切にしたいのならば、
”大きく切る”ことが、必要な気がする。

彼と私は、住む場所も見ている未来も、
何もかも違う。これから先、私たちの道が交わることはない。

ただただ、”好き”という気持ちで走り出した恋に、後悔は1ミリもしていないけれど

好きだからこそ、
側にいたらいけないのだ。


彼にとっても、私にとっても。


子どもみたいにキラキラした目で嬉しそうに話してくれた、彼の夢を応援したい。



数日後、彼に会う。


”大きく切る”という意味で、
人を”大切”にした経験はない。
私の一番苦手なことだ。
まして、大好きな人。


きちんと、切れるかな。




身体でも、心でもなく、愛している人へ。


みさとん
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