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ワタリドリのように、今。それでも見たかった景色

by みさとん

"ありもしないストーリーを
描いてみせるよ"
すがるようによく聴いた、ワタリドリ。

この目で、見たいと思った場所へ。

一年生の時、授業で見た映像。

"好きなときに好きなスポーツを好きな人達と"
人生の一部としてスポーツを楽しんでいる
ドイツのスポーツ文化に、最高にワクワクした。
その日の授業プリントには、"これ好き"
私の気持ちも一緒に、メモ書きが残されている。

「この目で見てみたい!」その気持ちだけで、1年間かけて一から準備を始めた。

1ミリもできない英語を辞書を使って必死にメールを送った。

"あなたの受け入れを心から歓迎します。"

そう返信が返ってきたときは、
「あ。本当に実現させちゃった...夢が叶うんだ...。」

全身に鳥肌が立って、ベッドの上でしばらく放心状態だったのを覚えている。

それでも見たかった景色は…

ヨーロッパでテロが多発しているときだったから、色んな人に心配をかけた。

必死にアルバイトをして貯めた、1万円札10枚じゃ足りない航空券を買った後に、

「行くのやめなさい。心配なの!」半分怒鳴り半分泣きそうに叫ぶ母の姿を見て、
気がつくと目から大粒の涙をこぼしていた。

親の反対を押し切って何かをするのは初めてだった。
迷った。親にこんな思いをさせてまですることなのだろうか。
旅行会社から”ヨーロッパ一人旅パック”そんな冊子をもらってきて夜中にインターネットでドイツの治安について調べている親の姿を見ると、申し訳なくなった。

それでも、私の気持ちは曲げることはできなかった。
”死んでもいい”それくらい行きたかった。
だって、今行かなかったら、絶対死ぬまで後悔する。自分の中でそんな確信があったからだ。

それでも見たかった景色は、
それはそれは絶景だった。


英語でホテルのチェックインができたときのほっとした気持ち

地下鉄の切符が買えた感動

腕に入れ墨が入っている怖いおばちゃんにハンバーガーの注文ができたときの達成感

「なんで日本人は英語が話せないの?」
純粋な瞳でそう聞かれたときのもどかしさ

「日本語で”ありがとう”ってなんていうの?」興味津々の瞳が嬉しかったこと

「あなたに会えてよかった、言葉が通じなくても関係ない」その笑顔に熱い気持ちが胸にこみ上げた瞬間


・・・絶景だった。


「日本から来ました!」自己紹介をすると”Welcome!コンニチハ!ヨロシク!”
握手をしたおじいさんの手が温かくて

切符が買えなくて困っていると
「助けようか?」ジェントルマンが話しかけてくれて

列車がたくさん停まっているハリーポッターみたいな中央駅で、「あなた日本人?」出発の笛なんてお構いなしで話しかけてきたお姉さんの笑顔が


不思議だった。
一人で来ているのに、街を歩けば
一人じゃなかった。


人懐っこいドイツ人が不思議で、おかしくて、でもそれが嬉しくて。
笑いを堪えながら風を切って歩いた。

音を立てて崩れたもの。

地下鉄に乗ったとき。

「隣に座りな!」そう手招きして私に声をかけてくれたおじいさんがいた。

「ドイツ語は話せる?」

「どこから来たの?」

「ぼくね、昔日本に行ったことあるんだよ、そこでね…」


”このおじいさんは、どうしてこんなに楽しそうに、私に色々話してくれるんだろう”

不思議だった。

英語だって知ってる単語を繋ぎ合わせてるだけで話せているうちに入らない、
おじいさんの早口な英語も正しく理解できているのか、わからない。

だけど私は、
おじいさんのキラキラした瞳に吸い込まれるように一生懸命うなずき、これ以上ないくらい大げさなリアクションで気持ちを伝えた。

日本人の女の子が、しんとしたドイツの地下鉄の中でおじいさんと騒いでいる異様な光景だったけれど、
楽しそうに話してくれるおじいさんの気持ちに応えたかったのかもしれない。
言葉が通じないから分からないなんて理由で失望させたくなかったのかもしれない。

すると突然、

おじいさんがおもむろにポケットからハンカチを取り出した。
見ると、目を赤くして涙がこぼれるのを抑えているようだった。

びっくりしてオロオロするばかりの私。

「実は三日前に家族が入院して、今ちょうどそのお見舞いの帰りでね。思い出しちゃって。」

”Sorry..Sorry."

そう言いながら、恥ずかしそうに少し笑いながら涙をふくおじいさん。
私は一緒に悲しくなり、一緒に泣きそうになった。

「わたし、この駅で降りなきゃ。」
後ろ髪をひかれる思いとはまさにこのことだと思った。
たくさん伝えたいのだけれど、
言葉が出てこないわたし。精いっぱいの「Danke schön (ありがとう)」を言った。

ホームに降りた私に、
"ありがとう。良い旅を。"
そう言って笑顔で投げキッスをするおじいさん。

電車を見送りながら、一瞬何が起こったのかわからなかった。

ホームの階段を登り、横断歩道を渡るころには涙が次から次へと溢れ出て止まらなかった。

"なんなんだ、この街は"
自分の常識が、いとも簡単にガラガラと音を立てて崩れていった。

初めて会った
言葉の分からない日本人の女の子に楽しそうに話しかけ、
悲しい出来事があったと涙を流すおじいさん。

こんなにも純粋で、
"ありのままの人の感情"に触れたのは初めてだった。

"どうして笑ったらだめなの?どうして泣いたらだめなの?笑いたいなら笑って泣きたいなら泣く。何も特別なことなんかじゃないよ。"

そんな風に、言われているみたいだった。

あのおじいさんに会うことは、もう二度とないかもしれない。だけど、あのおじいさんが見せた涙は今も、私を強くする。

当たり前だけど、自分が知らないだけで地球の裏側では今日も誰かが泣いたり笑ったりしているんだ。
そんな当たり前の感覚を世界中の人が身体で感じられたら、
この世界から戦争なんてなくなるんじゃないか。そう思った。


"誰も聴いていない 気にも留めない 
それでも歌い続けた
傷ついたあなたを、笑わせたいから"

それは、
チケットを買って飛行機に乗るだけで
見れた景色。


みさとん
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