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自分の名前。美里

by みさとん

中学生の頃、「美里」という名前の由来を、両親に聞いたことがある。

何度聞いても何故この名前にしたのか、はっきりとした答えは返ってこない。なぜかいつもうやむやにされてしまう。私の気のせいだろうか。なんとなく、特に母はこの話題を嫌がっているように感じていた。

そしていつだったか。しびれを切らしたように父が教えてくれた。
祖父の名前、”増美”と祖母の名前、”里子”の「」と「」を取ったんだと。

”本当だろうか?”
しつこく聞いたせいで機嫌が悪くなった母を横目に納得したふりをしたが、もやもやは晴れなかった。

聞いたことがある。

本当は、わたしには兄か姉がいたということを。

流産で、性別もわからないまま亡くなってしまったらしい。

その事実を聞いたのは、中学にあがったばかりのとき。平日なのに仕事を休んで母と出かける父を見て、「なんでなんで」としつこく迫ると母が教えてくれたのだ。

私には姉か兄がいたこと。お腹の中で亡くなってしまったこと。だから毎年神社に行って”家族を見守っていてください”とお参りをしているということを。

わたしはそれを初めて聞いたとき、本当にショッキングだった。色んな感情に押しつぶされそうで、部屋にこもって、泣いた。

”わたしが家族や親せきに、甘やかされて本当に大切に大切に育てられてきた理由はこれだったのか。”
”幼い頃、姉か兄が欲しかったと言い放っていた自分はどれだけ母を傷つけていただろう。”

怖くて、怖くて。
逃げるように、泣いた。


それから大学生になり、ある講義で出産について扱う時間があった。淡々と進むのかと思いきや、授業の最後に先生が私たちの目を見て話しだした。

「子宮を検査するときどうやって検査するか知ってる?機械に足を乗っけて先生の前で開脚するの。それで中に機械を入れて検査するのよ。びっくりしないように今のうち教えておくわね。」

ショートカットの、さばさばした女の先生。わたしはその先生から伝わる言葉の凛とした姿が好きだった。

「お腹の中で赤ちゃんが死んでしまうと、先生の前で足を開いて機械を中に入れられて、そこから赤ちゃんを掻き出すの。性別もない小さいからね。産声を上げない赤ちゃんはそうやって出てくるんだよ。亡くなっていることが分かった瞬間、先生が赤ちゃんを”物”って呼ぶの。あのときは夫と泣き崩れたわ~。」

私たちの目を見て話す先生。気がつくと涙が止まらなくなっていた。

何故か。
母はこうして私の姉か兄になるはずだった赤ちゃんと対面したことを、知ったから。

同じ経験を、母がしたことを、知ったから。

この経験をした後に、私を生んだのだと、知ったから。

母は、生まれてきた私に、”生まれてきてくれてありがとう”そう第一声に言ったそうだ。その重みが、母の愛情そのものな気がした。

わたしの名前の由来は、生まれてくる姉か兄に関係しているのかな。あれからその話題は一度も出ていないけれど、最近はそう思うようになってきた。わたしの勘があっていようがなかろうが、そうであってほしいなと思う。

「美里」

とても可愛い名前だなと思う。
自分の名前がすごく好きだ。

名前に意味が込められていないから、その通りに生きなきゃっていうプレッシャーもない。ただ私自身を彩る一つとして、私の隣に一生居続けてくれる両親からのお守りみたいなもの。

亡くなってしまった兄弟の分まで。
なんて思ったことは一度もないし、たぶんこれからも思わない。

だけど、強く大切に生きようと、思える。

あなたの、おかげで。

神社にお参り、行こうかな。


みさとん
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