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文章を書くことを教えてくれた人。

by みさとん

誰もいない教室を、まずはクーラーでキンキンに冷やすことから始まる夏休みがあった。

白いYシャツと紺色のひざ丈スカートは、不安げにロッカーの上に座って外を見る。

”受験”ってこんなに苦しいものなのかな。

夏の暑さなんて気にならないくらい、わたしは苦しかった。


”将来どうなりたいのか”
”高校生活で何を学んだのか”
”自分は成長したのか”


わかりそうで、わからなかった。
形はあるけど掴めない雲みたいに。きれいな青空に私だけが浮いているような感覚だった。


毎日、書いた。
行きたい大学に行くために。

部活が終わると教室に足を運んでくれる先生。
廊下で響く足音。ドアを開ける瞬間の時間が止まったような感覚。
先生を見てにこっと笑顔になる、わたし。

今でもくっきり、覚えてる。


きっと、嬉しかったんだ。
毎日聴こえる足音に、ふわふわ浮いている雲のままでもいいんだと思えたのかもしれない。

文章は、この人から教わった。


書くことが下手くそだった私は、彼の文章をよく見ていた。

書くためにココロをハダシにすること。
その初めての経験が高校生だったと今になって思う。

制服を着た私には少し恥ずかしいことだったけれど、そんなことはどうでもよくなるくらい彼の真剣なまなざしと言葉が「好き」だった。


毎日書いてはボールペンの赤いインクが入る日々。

”書いたからって、なんなんだろう。”


ずっと思っていた。

私の進路は、こんな800個の文字を集めた紙の上で知らない大人たちに勝手に決められるなんて。
じゃあ、なんのために書くんだよ。

やるせなさと戦いながら、自分と向き合いそれを形にしていく作業は吐き気に襲われるほどつらかった。


でも先生が書く文章を読むとそんな気持ちは一瞬、すっといなくなる。

だから好きだった。
心の中でわっと驚くのはいつものこと。
生々しい体温のある文章と綺麗な言葉でわたしの気持ちを800字に収めてしまう。


文章を読むと、わかる。
目の前にいる私に、目の前にあるありったけの力で応えてくれていることが。

嘘がない。
それにどれだけ苦しめられ、どれだけ救われたか。


そんなことを繰り返して、少しずつわかってきた、私が書く理由。

書くことは、誰かに何かを上手く伝えられる一つの方法なんだよ。
だから、うまくなれ。

文章を読むたびに、そんなふうに言われているみたいだった。


彼が教えてくれた、言葉や文章の考え方は今でも私の身体に染みついている。
たぶん、一生離れないクセみたなもの。

彼が教えてくれた、誰かのために一生懸命になる姿勢は今でも私の心に染みついている。
たぶん、これからわたしが磨いていくもの。



なんで書くことが好きになったんだろう。

ほんとうにつらかったのに。ほんとうに苦しかったのに。結局わたしは笑顔だった。

泣いても、苦しくても、書くことに夢中だったあの夏。

勉強に逃げてもよかったのに。ギブアップしてもよかったのに。

蝉の音が聞こえなくなった頃、
わたしは”書くこと”が「好き」になっていた。


伝えたいことがある。
伝えたい人がいる。


わたしのココロをハダシにしてくれた人。
あの夏がわたしを強くする。


言葉は、その人自身だと思うから。


わたしは彼に文章を教われてよかったなと思う。


みさとん
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