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茶封筒の3万円

by みさとん

旅の帰路の途中、飛行機の中で自然と頭に浮かぶのは帰国後に何をしたいかだった。

雲の中、少しの揺れと海を背に
”もっといろんな人と出会いたい”
そんなぼやっとした気持ちはわたしをこの場所へと導いた。



中央線沿い、赤ちょうちんと少しの哀愁が似合う駅。

迷い込んだ子猫がこの店に懐くように何もわからずともそのままでいい。そんなふうにカウンター越しに言われているようでわたしは迷いなくお客さんと向かい合うことができる。


カウンターを超え、伸ばした腕でそっとコースターにグラスを置くこと。テレビの話題に耳を傾けること。たまにお酒を頂くこと。”次は何を話そうか、きちんと言葉を選び取れているかな。”ふとした沈黙にお皿を泡だらけにしながら考えること。


これが一生懸命というならば笑っても笑っても尽きない時間とわたしに向けられる笑顔に、いつだって一番の笑顔を引き出してもらっているのはわたしの方だ。


この仕事が好きだと思った。

”いろんな人に出会いたい”そう思って始めたカウンターと少しのテーブルのある小さな居酒屋で、わたしはまた一つ”自分の好きなこと”を見つけてしまったらしい。


常連さんの顔と名前が一致してきた今日。初めてもらったお給料。

ママからもらう茶封筒と”お疲れ様”の柔らかい声を家まで持って帰ったあとにそっと開ける封筒。中には3万円が入っていた。


あれ?交通費も多めに入っているし、お給料も明細より少し多い。


何も言わないママに、すごくすごく大事なものをもらった気持ちになった。確かに自分で働いて稼いだお金だけれど、それを見ていてくれている人がいて、”ありがとう”の気持ちが伝わってくるこの茶封筒の中。適当になんてできないと思った。

カウンター越しにお客さんからいただくのは私自身の価値でもある。だからこそ、誰にでもできる、ではないわたしにしかできない仕事がしたいと思った。


わたし自身でできること。わたしにしかできないことに、お客さんは楽しんでくれている。また来たいと思ってくれる。



お金を稼ぐということ。

人のご縁を大切にするということ。

その時、その時、を守るように。


きっと、時給や場所や楽なものだけを選びとっていたら気づかなかった。お金も大事だけど"どんなふうにお金を稼ぎたいのか。"


茶封筒の中には忘れたくない気持ちと忘れちゃいけない気持ちが入っていた。

毎日いろんな人が来る。
毎日同じ人が来る。
カウンター越しの風景。

みさとん
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