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小説書きました【公園】

by みさとん

"5時間目のプールのせいだ。"

自転車を漕ぐ自分の髪の匂いになんとなく夏を迎えに来た気分だった。

部活が無い日はきみを教室まで迎えに行って一緒に帰るのが何よりも楽しみで、いつもの机に僕を待つきみの横顔も大好きだった。

高校3年生の夏は、足元がぐらぐらするように。いや、ふわふわと浮かぶ雲のように不確かでそれを笑ってごまかす自分に誰かが気づいてくれたらなと思う。

自分と大切な人との今と未来に、「進路」なんて、わからなかった。

なにを大切にしたいのか。
なにを大切にすべきなのか。

やっぱりきみは、東京の大学に行くのだろうか。

"蝉、うるさいな。"
そんなどうでもいいことできみとの会話を繋ぐ。

***

ココロがざわざわする。
ココロが、さわさわする。

不確かな未来に、どうしようかと足踏みをして空を見上げては自由に飛び立つことを躊躇する小鳥のようで羽根はあるのにその羽根を信じられない自分に、今日も空の、そのまた向こうに想いを馳せる。


昼の公園は、じりじりと暑く時間が止まったかのように静かだった。遠くの方で自転車に乗る小さな子供に目を向けて白く細かい土の上をわざとらしく力を入れて歩いた。

そんな僕に”もっと力を抜いてよ”と言っているかのような少し強い風が、水色の空に緑が透ける新緑を揺らす。

"僕の見えてる景色ときみが感じている世界は違うんだね。"

そうきみの横顔に心の中で意地悪に語りかけてみるけれど寂しさを通り越した綺麗な横顔に魅了されてしまう。それは見とれてしまうとは違う、確かな”寂しさ”だった。

"そうしてこんなにも、僕は"

目を伏せる僕に気がつき、ふわりと笑うきみにはどうしても敵わないといつも思う。

何も話さない僕たちの間にはきっともう本当に何も話すことが無いのだろう。そんなふうに悲観すると、きみが突然にでも優しく吹く風のように僕の腕を掴んだ。白いYシャツにきみの跡が残る。


"ブランコ、乗らない・・?"

少し照れたように言うからなんとなくそうしなくちゃいけないような気がして、うんと目を合わせずに呟く。

行ったり来たりするブランコに、僕たちのリズムは笑ってしまうほどに合わなかった。それはきっと、はたから見たら当たり前に、そして気にする要素など何もないのかもしれないけれど(きっと考えすぎなんて言われる)、すれ違ってますよーと大声で誰かに言われているような恥ずかしさで思わず泣きそうになった。


"行ったり来たりしてさ、いつか一緒に、一緒のタイミングで・・"

何かを一生懸命に言おうとする彼女の話を聞かないふりをして、でも彼女の言いたいことが痛いほどわかる自分を振り切るように一番高いところから飛び降りた。

よし、着地。

じゃりっと靴を鳴らして息を止めた。


"行ってきなよ。"

ふり絞って出したその一言はきっと震えていて何かに怖がる小さな子供のようだったかもしれない。それでもじわりと額に汗をかき僕をまっすぐに見つめる彼女にやっぱりこれでいいんだと胸の奥、何かがが溢れ出すのがわかった。

"でも俺、待てないからな。"


なにを大切にしたいのか。
なにを大切にすべきなのか。

自分の羽根を、いつか信じたい。
自転車にまたがる。
蝉の音が僕を貫いた。


みさとん
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