LOG IN

好きな映画は教えたくない

by みさとん

鼻をくすぐるタオルケットの優しい匂いを嗅ぎながら昼寝をする猫のように丸まる。携帯に腕を伸ばしたけれどあっさり瞼の重さに負けまた眠りにつく土曜日の朝。

そんなことを何度か繰り返すとお腹も減ったところだしと、とろとろ身体を起こしカーテンを開けることにした。


シュッ、シャッ


カーテンを引く音と同時に真っ白い世界に一瞬で覆われる。
青空を期待したのに。そんな表情で白い雲がどこまでも続く空を見上げた。

なんともわたしの気持ちにぴったりな空

***

好きなことを仕事にした。

まだ社会人になって1ヶ月とちょっと。まだ好きな仕事をやらせてもらえない。正確には、できないからやらせてもらえない(研修中)なのだけれど

ありがとうを一日に3回言われるとして、
その100倍くらい耳を塞ぎたい言葉のシャワーを浴びる。電話をかけ紙に書かれた同じ台詞を何度も話す。決まった時間に決まったことを決まった人とこなす。

わたしの弱い部分は生まれてからずっと変わってないという。窓のない部屋で言われた言葉たち。


わたしが毎日していることは誰かのココロを少しでも温かくしているだろうか。

気がついたら苦しかった。

何を信じたらいいのか。何を想いどう足を動かしたら正解なのか。そんなことばかりを無意識に考える日々に、なんのためにと今日も同じスーツに身を包む自分を思う。


何をする気にもなれくてソファに沈むように横たわる。昨日の帰り、涙をためながら借りた映画を観ることにした。

"好き"な映画。おすすめしたい映画とは違う、心の中を覗かれているようで好きな映画はあまり人に教えたくない。自分の柔らかく弱いところを映してくれるからそのままでいいんだよと言ってくているような時間が流れるこの映画が好きだ。


"欠けていくから月、大丈夫ですよ。"


繊細で人の心の行間を読むような感受性は、あやふやで世の中の何にも役に立たないかもしれないとスーツを着る毎日に感じるけれど

映画を観ているときは、旅をしているときは、文章を綴っているときは、

そんな自分が心底好きだと思える。
誰に理解されなくてもたった1人になったとしても、それでもいいと思える心の奥底の柔らかく頑なな自分。


旅するように歩く。

ペタペタと音を鳴らすビーサンの足音に風が身体を軽くした。黒猫がこちらをじっと見ている。
薄い雲はまだらに、蒼い空が優しかった。



みさとん
OTHER SNAPS