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早く行きたいのなら一人で行け。遠くへ行きたいのならみんなで行け。

by みさとん

どこか、遠く遠く飛んで行ってしまおうかと思った。消えてしまいたい、シャボン玉みたいに。そう何の気なしにきみに呟いた。世界の広さを知っているからこそもどかしかったし、その広さを知っているからこそ怖かった。

わたしの持っている感受性や好奇心や、目に映るきらきらした何かを全て奪われてしまうのではないか。

そんな日々が続いた果てにはもう、何者にもなれないのかもしれないと思い始めた。次第に踏み出すにも戻るにも行き止まりな気がして自分からその大好きな広い世界から遠ざかった。

もう炎はすぐそこまで来てるのにどの道も行き止まりでどうしようもない。苦しいと言えない自分。逃げたいと走り出せない自分に最後は身体が動かなくなって、とうとう広い世界を見ることができなくなってしまった。

「もう、辞めます」

泣きながらメールを打った。

時間が流れ、落ち着いて話せるようになった頃、曇った顔をした私は上司と喫茶店で向き合った。その人は何故か、何度も何度も時間をかけて「私の人生」と向き合ってくれた。上司として「会社を辞めるな」とは一言も言わなかった。自分の仕事より「一人の人」として、広くて時に窮屈なこの世界を生きやすくなるために、向き合ってくれたのだ。


会話の途中、上司がおもむろに紙袋を取り出し、手渡された。何故か、"何か大切なもの"が入っているとすぐにわかった。

「おまえの同期からだよ。」

手にした瞬間、どうしてだかもう涙が止まらなかった。紙袋の中身を覗く。
それらは、よーいどんっ!と一緒に同じ道を歩み始めた仲間からの想いを形にしたエールだった。

ぶわっと涙が出た。

温かいなにかが心の中に入ってきて、凍りついた誰にも触れさせなかった塊がじわりじわりと溶かされていく。

「おまえは愛されてるね。俺メール打ってるから気にせず読んでいいよ。」


ぶっきらぼうに言う上司に遠慮せず、手に取ったきみからのメッセージ。


今逃げるのは甘いんじゃない?


決めた決断を応援するよ! 


苦しいときは頼ってね。


みんなで乗り越えようよ。


これからも一緒に働きたい!


辞めたら寂しいな。


悩んだっていいじゃん。貫きなよ。


後悔のないように選んでね。


辞めて欲しくない。


いつでも味方だよ!


涙が溢れて溢れて、仕方がなかった。きみがこんなふうに私を見ていてくれたこと。わたしを想って丁寧に綴ってくれた言葉たち。

「伝われ!」と一生懸命想いを込めて時間をかけて書いてくれていた。厳しい言葉も、優しい言葉も、何一つ嘘偽りが無かった。それが伝わったから、涙が溢れて仕方がなかったのだ。


私に向かってまっすぐ差し出されたきみの手。ぎゅっと握った途端一人でどろどろに埋まっていた沼底から、ひょいっと引っ張り上げてくれた。

私を待っていてくれる人がいるんだ。
私の居場所は、ここなんだ

それだけで、私はどれだけ強くなれたか。

この世界を、どんなふうに生きようか。


それをたった一人で考えていた。
「自分のことは自分で決めたい」
いつだってそうだった。

だけど、「いやいや違うだろ!おまえはもっと楽に呼吸をしてこの世界を渡っていけるよ」そんなふうに、私の心に割って入り込んできた上司。

蓋をしていた過去と向き合って私の足首をぎゅっと握って離さない負の感情や劣等感や自己嫌悪たちに、

もう、大丈夫だよ。離していいよ。

そう言えた途端、10年間の呪いが解けたように自分でもびっくりするくらい声をあげて泣いていた。

我慢しないでいいんだ
怒ったって、いいんだ
嫌だって言ってもいいんだ

それが心にストンと落ちてきたら、本当に呼吸をするのが楽になった。ふわりと身体が軽くなりどこまでも飛んでいけるみたい。過去と向き合って自分の足かせを外したら、こんなにも見える世界が変わるのか。私は今まで、どれほど窮屈な世界を生きていたのだろう。もう、あの頃の自分に縛られなくていいんだ。


いいんだ。
もっと自分の感情にまっすぐ生きて。


過去に向き合えた。ちゃんと、立ち向かえた。感情に蓋をしてしまう、自分に。


過去の自分を乗り越えたいと思えたのは、みんなが見放さずに「待っているよ」と声にしてくれたから。
世界を私らしく生きていく術を、一人の人として教えてくれた上司がいたから。



どこかの国の、ことわざを思い出した。

早く行きたいのなら一人で行け
遠くへ行きたいのならみんなで行け


ありがとうじゃ伝えきれないから、少しずつ一つずつ恩返しをしていくよ。



遠くへふわりと、飛ぶために。


みさとん
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